探検 〜城下編〜

 

わいわいと賑わう町並み。
屋台のような店が多く並び、多くの人々が道を行きかっている。
 
そんな多くの笑顔が溢れる中、一風変わった三人の少女たちが楽しそうに仲良く歩いていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ひかるたちは多くの店を眺めながら城下を歩いていた。
物珍しそうに始終キョロキョロするひかるに椿華と夏珠は楽しそうに説明しながら案内していく。
そんな時、美味しそうな香りが漂ってきて三人は顔を見合わせた。
 
 
「お腹、すいたね・・・」
「私も・・・・・・」
「よし!ここで肉まんでも買おう!」
「えっ、でも椿華ちゃんお金は?」
「ふっふっふっふ。実は鳳琉から少しくすねてきちゃったんだよね〜」
 
悪戯した子供のような表情を浮かべて腰にぶら下げている皮袋を小さく揺らす椿華にひかると夏珠は呆れたように苦笑を零した。
それを別段気にした風もなく、椿華はここで待っているよう言うとルンルン気分で店の方まで走っていった。
 
 
 
「おっちゃん、肉まん三つ!」
「おや、こりゃあ椿華様じゃねぇですか。またこんなところに来なすったんですかい?」
「いやだな、おっちゃん。様付けなんて止めてよね。おっちゃんと私の仲じゃないの」
「そうは言ってもね〜・・・」
「それより肉まん!肉まん三つ!!」
「全く、椿華様は本当に変わってるよ」
 
 
そう言いながらも店のおじさんは柔らかく笑いながら肉まんを出してくれた。
それに椿華も満面の笑みで応えながら代金を支払っている。
 
その様子を少し離れた場所から見つめながら、ひかるは椿華はしょっちゅう城下に来ているのだろうかとふと思った。
同じように椿華を見ている夏珠にそっと聞いてみる。
 
 
「ねぇねぇ、椿華ってもしかしてしょっちゅう城下に来てるの?」
「そうだよ。もう椿華ちゃんってばいっつもあたしを置いて行っちゃうんだから!」
「そうなんだ・・・」
 
 
 
 
 
「二人で何の話してるの?」
 
 
かけられた声に顔を上げれば椿華が肉まんを持って戻ってきたところだった。
なんでもないと首を振るひかると夏珠に椿華は小首を傾げながらもそれぞれ肉まんを渡してくれる。
それに礼を言ってひかるは肉まんにかぶりついた。
 
 
「あっ、美味しい・・・」
「でしょう!ここの肉まんすっっっごく美味しいから、いつも城下に行った時は買ってるんだよね〜」
「よくお土産で買ってきてくれる肉まんもここの?」
「そうだよ」
 
 
そんな話をしながら肉まんを頬張っていると、向こうの方から騒がしい音が響いてきた。
何事かとそちらに視線を向ければ少し行ったところに小さな人だかりが出来ているのに気が付く。
 
ひかるたちはチラッと一瞬顔を見合わせると食べかけの肉まんを持ったまま、その人ごみの方へと近づいていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「は、離して下さい!!」
 
「おいおい、ぶつかっておいてそれはねぇよなぁ〜」
 
 
耳を澄ませば大河ドラマなどでよく聞くお馴染みの台詞が前方の人だかりの中から聞こえてくる。
声からしてどうやら女一人に男が複数いるようだ。
その声に椿華が顔を顰めさせながらも目の前にいる人だかりの一人に声をかけた。
 
 
「ちょっといいかな、お兄さん。いったい何の騒ぎ?」
「・・・ああ、ごろつき共が肩にぶつかったの何のって女の子に絡んでいるんだよ。助けてやりたいが・・・俺たちじゃああいつらには敵わねぇし・・・」
「でも、何も出来ないにしても誰か城の人を呼びに行くくらいはしたんでしょう?」
「そりゃあしたが・・・これが中々来てくれないんだよ・・・」
 
心底困ったように言う青年に視線を人だかりの向こうに向ければ、なるほど、がたいのいい屈強な三人の男たちが怯えている小柄な女性を取り囲んでいる。
それに一層眉間に皺を寄せた椿華はひかるに向き直った。
 
 
「ひかる、ちょっと持っててくれない?」
「えっ、う、うん・・・。分かった」
 
 
いきなり手渡された肉まんに、驚きながらもひかるは慌ててそれを受け取った。
それに椿華はにっこりと笑う。
 
 
「ちょっとここで待っててね」
 
 
語尾にハートマークがつきそうな感じでそう言われ、ひかるも夏珠も困惑しながらも大人しく頷いた。
それに椿華は一層笑みを深めると少し後ろへと下がった。
青年に道を開けてくれるよう頼んで椿華がだっと勢いよく走りだす。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ちょっと一緒に来てもらおうか!」
「や、やめて!誰か、助け・・・」
 
「か弱い乙女に何さらしとんじゃ、ゴルゥアァァアアァアァッッッ!!!!!」
 
 
 
 
高らかに声が響いてきたかと思ったその時、男三人組のうち頭と思われる一番がたいのいい男が勢いよく吹っ飛んだ。
それとほぼ同時に椿華が絡まれていた少女の前に華麗に着地する。
 
つまり・・・椿華はひかるたちがいたところから猛ダッシュして頭(仮)に跳び蹴りをかましたのだ。
 
 
そのあまりの鮮やかさに椿華以外のここにいた全ての人間が暫く呆然とする。
そんな中、椿華はこの場の状況など眼中にないといった様子で尻餅をついてしまっている女性に手を貸してあげていた。
その姿はまるで紳士そのもので、とても様になっている。
 
 
 
 
「大丈夫、お嬢さん?」
「・・・あっ、は、はい!ありがとうございます!!」
 
 
椿華の容姿はどう見ても女性なのに、その様があまりにもかっこよく似合いすぎていた。
その証拠に助け起こされた女性の頬は真っ赤に染め上げられている。
まさに王子様に助けられたお姫様のような恍惚とした表情だ。
 
 
 
 
 
「椿華ちゃんも罪だよね〜」
 
 
夏珠の少し的外れな言葉も妙に頷けてしまえるから不思議だ。
だがそんな穏やかな時がずっと続くはずもなく、椿華が蹴り飛ばした頭(仮)とその他二人組みが椿華の前に立ちはだかった。
 
 
 
「このアマァ、よくもやりやがったな!」
 
「あれ、まだいたんだ。さっさと逃げとけばいいのにさ」
 
「何だと!いい気になりやがって!!」
「俺たちに楯突いたこと、後悔させてやるぜ!!」
 
「それはどうかな〜」
 
 
 
余裕そうに笑みを浮かべる椿華にどうやら三人組は本気で切れてしまったようだ。
顔を真っ赤に染めて勢い良く襲い掛かってきた。
 
 
 
「女だからって容赦しねぇ!」
「容赦してもらわなくて結構・・・。王 椿華をなめんなよ!!」
「・・・っ?!!」
「な、何!王 椿華だと?!!」
「ま、待て!!」
 
「もう遅いわ!問答無用ーーー!!!」
 
「うわぁーーーー!!!!」
 
 
 
椿華が名を名乗った途端慌て始めた男たち。
それに構わず椿華は彼らに勢いよく突っ込んでいった。
そのあまりの強さにひかるは目を瞠る。
 
 
 
強いってもんじゃない、強すぎる・・・。
 
 
わぁわぁ騒ぎながらも攻撃してくる男たちの鋭い攻撃をするすると身軽にかわしながら的確かつ大きな攻撃を打ち込んでいく。
そのすごさにひかるは思わず呆然としてしまった。
それに気がついて夏珠がおかしそうにくすくすと笑い声を零す。
 
 
「椿華ちゃん、強いでしょう」
「・・・うん、びっくりした・・・。本当に強いね。あっ、そういえば夏珠」
「ん?何?」
「さっき椿華が名前言った時あの人たちすっごく驚いてたけど、椿華ってもしかして超有名人?」
「うん、そうだよ。なんてったって“八龍”の一人だもん」
 
 
にっこりと微笑む夏珠にひかるは首を傾げた。
 
 
「その“八龍”って・・・?」
「あっ、そっか知らないよね。あのね“八龍”っていうのはこの翆国の最も強い八人の将軍さんたちのことだよ。椿華ちゃんはその“八龍”の一人なの」
「へぇ、そっかぁ〜・・・って、椿華って将軍なの!!?」
「うん、そうだよ。他の人たちからは“紅の龍姫”なんて呼ばれちゃってるんだから〜」
 
 
その思っても見なかった言葉の数々にひかるは絶句した。
 
 
「ありえない・・・ありえなさ過ぎる・・・・・・」
「そうかな?」
「だって普通、女子高生が将軍になんてなれないでしょう!!」
「あはは、そういえばそうだね〜。でもほら、そこは椿華ちゃんだから」
「・・・・・・それ、椿華に言ったら絶対怒られると思うよ」
 
あはは〜と可愛い笑顔を浮かべて言う夏珠に呆れたような表情を浮かべる。
それでいて、ひかるははたっと夏珠を見つめた。
 
「そういえば、椿華の本名は芹沢椿華だよね?じゃあ、さっきの王椿華っていうのは?」
「ああ、それはね、椿華ちゃんがすっごくお世話になった人の姓名だよ」
「お世話になった人の姓名・・・?」
 
不思議そうに小首を傾げるひかるに、夏珠は苦笑を浮かべて戦っている椿華に目を向けた。
それにつられるようにして、ひかるも椿華に目を向ける。
夏珠は暫くその戦いを見た後、視線はそのままにゆっくりと口を開いた。
 
「・・・ここの人たちの名前ってね、姓名と名前がくっ付いてるの。例えばあたしだったら朝香さん家の夏珠ちゃんってなるでしょう。で、ここの人たちで言うと、例えば亮凍だったら亮さん家の凍君って感じになるわけ」
「・・・ふむふむ」
「それでね、あたしたちがこの世界に来てまだ間もない時に王麒(オウキ)さんっていう人にすっごくお世話になったの。特に椿華ちゃんは本当のお父さんみたいに感じるほど親しかったし信頼してた。・・・残念なことに王麒さんはもう死んじゃったんだけど、その時から椿華ちゃん、自分は王麒さんの娘だって感じで王の姓名を名乗ってるんだ」
「そう・・・なんだ・・・・・・」
 
 
そんなことがあったなんて全然知らなかった。
いや、彼女たちに会ったのが今日が初めてなのだし当たり前と言えば当たり前なのだが・・・。
それでも、その話は聞いていて何かを感じずにはいられないものだった。
ひかるは複雑な思いを胸に感じながら改めて椿華も見つめる。
そして夏珠も同じように椿華を見つめる中、突然夏珠が何かに気がついたようにばっと周りに目を走らせた。
それにひかるは驚いて夏珠を見つめる。
 
「な、夏珠・・・?」
「一人いなくなってる!」
「えっ!?」
 
その言葉にひかるは慌てて再び人ごみの中心に目をやった。
そこでは椿華が二人の男と可憐に戦っている。
 
そう、二人・・・−−−。
 
 
 
 
「・・・一人、足りない・・・・・・!」
 
「ひかるちゃん、あそこ!」
 
 
夏珠の指差す方を見ればそこにはもう一人の男の逃げる背中が見えた。
椿華を見れば二人の男に阻まれて逃げたもう一人にまで手が回らないようだ。
それに夏珠が歯軋りする。
 
 
 
「女の子にあそこまでしといて逃げ出すなんて、許せない!」
 
「あっ、夏珠!!」
 
 
 
だっと走り出す夏珠にひかるは咄嗟にその小さな背中を追いかけた。
だが、しかし・・・−−−。
 
 
 
 
 
 
 
 
速い・・・速すぎる・・・・・・(汗)
 
 
 
どんどん遠ざかっていく夏珠の背にひかるは酷く焦った。
 
 
あんな小さな身体の何処にあんな足の速さが・・・。
いや、小柄だからこそ速いのか?
 
 
そんなことを考えながらひかるはついに走る足を止めてしまった。
足が酷く重く感じられて胸も苦しい。
心臓の音が大きく早く耳に響いた。
息を整えようと深呼吸を繰り返しながら周りを見渡せば、あの逃げていった男も夏珠の姿も見当たらない。
どうやら完全に逸れてしまったようだ。
 
 
これからどうすべきか悩んで深くため息をついたその時、突然後ろから口を大きな手で塞がれてひかるは目を見開いた。
抵抗する暇もなく町の路地裏に引きずり込まれていく。
大きな手に両腕を拘束され恐怖が湧き上がった。
 
 
 
「お前、あの“龍姫”の小娘の連れだな・・・」
 
 
 
耳元で呟かれた低い声に背中がゾクッと震える。
手で押さえられて動かない顔に視線だけを後ろに向ければ、自分を羽交い絞めにしていたのは夏珠が追っていたはずのあの三人組の一人だった。
 
 
 
夏珠、見失っちゃってるじゃんーーーーー!!!!
 
 
 
そう心の中で叫びながらひかるは必死に抵抗した。
そこに再び違う声が響いてきてひかるはビクンッと大きく身体を震わせた。
目を向ければ目の前には五人の男たち。
その中心にいる男に向かって自分を捕らえている男が声をかけた。
 
 
「頭、いいカモが見つかりやしたぜ」
「ああ、“紅の龍姫”に見つかった時はどうなるかと思ったが・・・やっと俺たちにも運が向いてきたみたいだな」
 
 
そう言ってこちらに向けられた視線にひかるは今までにないほど恐怖した。
 
 
このままでは何をされるか分からない。
 
 
ひかるは必死にもがいて抵抗した。
咄嗟に未だ口を覆っている手に歯を立てる。
 
 
「うわっ、こいつ噛みやがった!!」
 
 
驚いて緩んだ拘束にひかるはがむしゃらに手を払いのけてそのまま町の中へ逃げ込もうと足を踏み出した。
しかし何歩も行かないうちに強い力で髪を引っ張られ、そのまま後ろの地面へと投げ飛ばされる。
 
痛みに顔を歪めながらも目を上げれば目の前には六人の男たち。
 
噛まれた男がまるで復讐するかのように無言で拳を振り上げてきた。
それに咄嗟に目をきつく閉じる。
 
 
 
 
 
 
 
 
バキッ・・・!!−−−
 
 
 
鋭い音が辺りに響き渡る。
しかし予想していた痛みが襲ってこないことにひかるは恐る恐る閉じていた目を開けた。
 
 
 
最初に目に入ったのは鮮やかな紫。
続いて美しく輝く金色。
 
 
 
鮮やかな紫の衣を纏った金髪の青年がひかるの前に立ち、両手で持った槍で男の拳を受け止めていた。
 
 
 
「なっ、だ、誰だてめぇ!!」
 
 
突然現れたその青年に男たちが怒鳴り声を上げる。
だが青年自身はそれに眉一つ動かさずただ静かな双眸で男たちを睨み付けていた。
それが気に入らなかったのか男たちは更に怒声を上げていっせいに青年に襲い掛かっていく。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
息を呑む間もなかった。
 
 
 
気がつけば男たちは全員地に伏せられ、その中青年一人が静かにその場に佇んでいた。
それにひかるは地面に座り込んだまま呆然となる。
 
青年は軽く服の埃を払うとゆっくりとひかるへと近づいてそっと手を差し伸ばしてきた。
 
 
「遅くなってしまい、申し訳ありません。・・・お怪我はありませんか?」
「あ・・・ありがとう、ございます・・・。あの・・・貴方はいったい・・・」
 
 
青年の差し伸ばされた手にありがたく助け起こしてもらいながら、ひかるは改めて青年を見つめながら尋ねた。
 
青年の口調ではまるで自分と彼は知り合いのようだ。
だが自分は彼のことを知らない・・・。
 
それとも私が忘れてるだけ?と疑問に思う中、青年は心得たように口を開いた。
 
 
「私は・・・「あーーー、魁雫(カイナ)!何であんたがこんな所にいるの!!?」
 
 
突然の声に振り返ればそこには驚いた顔をした椿華と夏珠がこちらに走ってきていた。
ひかるの様子を見て途端に二人の表情が歪む。
 
 
 
「ごめん、ひかる!私が守るって言ったのにこんな目にあわせちゃって・・・」
「ごめんね・・・ひかるちゃん」
 
「ううん、別に大丈夫だよ!この人が助けてくれたし・・・」
 
 
そこまで言ってひかるはまだ彼が誰なのか知らないことに気がついて彼に視線を向けた。
それに気がついて椿華がひかるに彼を紹介する。
 
 
 
「ひかる、この人は魁雫。私と同じ“八龍”の一人。魁雫、彼女はひかるで、あんたも知ってると思うけど“五つ星の神子”の一人よ」
 
「よ、よろしく・・・」
「よろしくお願いいたします・・・」
 
 
「そういえば、どうして魁雫さんはこんなところにいるんですか?おかげでひかるちゃん助かったけど・・・」
「何故ではありません。鳳琉様が“八龍”を収集なされて神子様をお探しするよう命を下されたのです」
 
 
 
 
 
「・・・・・・おっと」
 
 
 
「ですから、“おっと”ではありません。・・・大層お怒りのご様子でしたよ」
 
 
 
眼帯がされていない薄水色の左目を細めて苦笑する魁雫に椿華と夏珠は顔を引き攣らせた。
 
 
 
「か・・・帰ろっか・・・・・・」
 
「・・・そうして下さい」
 
 
 
顔を引き攣らせたままそう言う椿華に魁雫は苦笑したままそう答えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
それから椿華と夏珠、そして何故かひかるまでがみっちり怒られたのは言うまでもなかった

 

 

 

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